『日本史学』(保立道久)30冊+中世史学(本郷和人)12人+

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日本史学 (ブックガイドシリーズ基本の30冊)

 待望の保立道久氏の『日本史学 ブックガイドシリーズ基本の30冊』が届く。
ちなみに保立道久氏といえば、

基本の30冊の「読書のはじめ」は、なんと森浩一氏の『わが青春の考古学』(ちくま文庫 2012年)

わが青春の考古学 (新潮文庫)

わが青春の考古学 (新潮文庫)

考古学者の誕生の記録
 考古学というと,私か思い出すのは,『新編日本史研究入門』(東京
大学出版会, 1982年)の冒頭の論文「考古学への招待」で,甘粕健さ
んが次のように述べていることである。
  「考古学の大きな魅力は,美しい野山に散在するさまざまな遺跡
 を自らの足で訪ね歩き,また自ら汗を流して発掘し,そこに展開さ
 れた人間の営みを追体験するところから出発する健康な野外の学問
 であるという点にあるだろう。」」

本冒頭の「はじめに」の「哲学」、苦手をこらえて読み進めると、(歴史学は)「研究主体の人間的な苦悩を包摂する力をもつ人間的な科学である]と特徴づける太田英通の言葉が紹介される。
「個体としての人間の尊厳を包蔵するこの問いの前に立ち尽くす若い人々に対して,不惑の歴史
学は,自己の無力を悟りつつ,しかし人間の科学にふさわしい愛情をこめて,次のようにいうほかない。
ひとりで開けて入れ」と。」
「たしかに歴史学は変わった学問ではあろうが,過去を精細に総合的にみる能力を養い,人間が,自己の心と経験をふくめて過去を客観視するための訓練にはなる。私のような惑いの多い人間も,歴史学によって生きる力を支えられてきたと思う。
 さて,ともかく,歴史学はまだ若い学問であり,やるべき仕事は数限りなくあり,覚悟を決めた人手はいくらあってもたりない。本書は,それをわかっていただくために書いた。何歳から始めても,中年になっても,定年後になっても,いま始めれば,それは「永遠の今」である。歴史学の研究は,やり方になれれば,そう金もかからず,また特
定の分野の考証にしぼれば,史料の公開やデータベース化か進展した現在,誰でも一級の仕事ができる。その仕事場をのぞいていただくために,以下,30冊の本を選んで,(1)「読書の初め」(2)「史料の読み」,(3)「学際からの視野」,(4)「研究書の世界」, (5)「研究基礎:歴史理論」という順序に分類して紹介していくことにしたい。」
これは、読むしかない。と読み進めている。

保立道久の研究雑記: 日本史の30冊(人文書院)

日本の歴史〈3〉奈良の都 (中公文庫)

日本の歴史〈3〉奈良の都 (中公文庫)

飢餓と戦争の戦国を行く (朝日選書)

飢餓と戦争の戦国を行く (朝日選書)

生類をめぐる政治――元禄のフォークロア (講談社学術文庫)

生類をめぐる政治――元禄のフォークロア (講談社学術文庫)

平塚らいてう―近代日本のデモクラシーとジェンダー

平塚らいてう―近代日本のデモクラシーとジェンダー

第2部 史料の読み
古代祭祀の史的研究
法と言葉の中世史 (平凡社ライブラリー)

法と言葉の中世史 (平凡社ライブラリー)

近世の村社会と国家

近世の村社会と国家

日本の歴史〈29〉労働者と農民 (1976年)
天皇観の相剋―1945年前後 (岩波現代文庫)

天皇観の相剋―1945年前後 (岩波現代文庫)

第3部 学際からの視野
刺激的な著書が並んでいる。
生の緒―縄文時代の物質・精神文化

生の緒―縄文時代の物質・精神文化

政治のことば――意味の歴史をめぐって (講談社学術文庫)

政治のことば――意味の歴史をめぐって (講談社学術文庫)

場所と産霊 近代日本思想史

場所と産霊 近代日本思想史

柳田国男の民俗学 (歴史文化セレクション)

柳田国男の民俗学 (歴史文化セレクション)

治療文化論―精神医学的再構築の試み (岩波現代文庫)

治療文化論―精神医学的再構築の試み (岩波現代文庫)

第4部 研究書の世界
 津田左右吉『日本古典の研究』
 平川南『律令国郡里制の実情』
 黒田俊雄『権門体制論』
   黒田俊雄 権門体制論(趣味の館)
 網野善彦『日本中世に何が起きたか』  朝尾直弘『将軍権力の創出』
 安田浩『天皇の政治史』
 吉見義明『草の根のファシズム
 曽根ひろみ『娼婦と近世社会』

第5部 研究基礎:歴史理論
 石母田正『中世的世界の形成』        品切れとは残念。
 峰岸純夫『日本中世の社会構成・階級と身分』
 佐々木潤之介『江戸時代論』
 遠山茂樹明治維新

明治維新 (岩波現代文庫)

明治維新 (岩波現代文庫)

  豊見山和行編『琉球・沖縄史の世界』
琉球・沖縄史の世界 日本の時代史18

琉球・沖縄史の世界 日本の時代史18

  榎森進『アイヌ民族の歴史』
アイヌ民族の歴史

アイヌ民族の歴史

【参考リンク】
第一線の研究者の著作について知ることができます。本の紹介はなるべく一般向けとしました。
15分で分かる日本中世史(本郷和人)
五味文彦1・村井章介2・保立道久3・元木泰雄4・高橋昌明5・入間田宣夫6・藤木久志7・神田千里8ら第一線の研究者..本郷恵子9・桜井英治10..新田一郎11・東島誠12...彼らの動向は注視して見守る価値を有する。」(※番号は下記に対応)
「1、五味文彦『書物の中世史』(みすず書房、2003年)・『中世の身体』(角川書店、2006年)・『王の記憶』(新人物往来社、2007年)など、人文系学問の学際性の真髄を示す著作を矢継ぎ早に刊行している。

中世の身体 (角川叢書)

中世の身体 (角川叢書)

2、村井章介『中世日本の内と外』(筑摩書房、1999年)・『東アジアのなかの日本文化』(日本放送出版協会、2005年)など、東アジアにおける日本中世史を描く点で出色。村井の活躍により、ふるわない中世史の中で対外関係史だけは盛況である。なお、このジャンルでは榎本渉の『東アジア海域と日中交流』(吉川弘文館、2007年)も注目される。

東アジアのなかの日本文化 (放送大学教材)

東アジアのなかの日本文化 (放送大学教材)

3、保立道久『歴史学をみつめ直す-封建制概念の放棄』(校倉書房、2004年)など。歴史理論の第一人者であり、早くから歴史的データベースの作成に携わってもいる。

物語の中世―神話・説話・民話の歴史学

物語の中世―神話・説話・民話の歴史学

4、元木泰雄保元の乱平治の乱を読みなおす』(NHKブックス、2004年)など。中世成立時期の政治史の旗手であり、権門体制論の理論的再構築を行う。

保元・平治の乱を読みなおす (NHKブックス)

保元・平治の乱を読みなおす (NHKブックス)

5、高橋昌明『武士の成立 武士像の創出』(東京大学出版会、1999年)など。武士の本質を追い求め、戦士の範疇のとどまらない多様性に言及して、朝廷と武士の接合点を探る。

武士の成立 武士像の創出

武士の成立 武士像の創出

6、入間田宣夫北日本中世社会史論』(吉川弘文館、2005年)など。従来は辺境として切り捨てられていた東北地方からの視座により、全く異なる新鮮な中世史像を描く。

東北中世史の研究 (上巻)

東北中世史の研究 (上巻)


7、藤木久志『雑兵たちの戦場-中世の傭兵と奴隷狩り』(朝日新聞社、1995年)など。専ら歴史小説によって語られていた戦国時代像をアカデミズムの脈絡で、興味深く捉え直す。

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))

8、神田千里『一向一揆と戦国社会』(吉川弘文館、1998年)など。戦国時代を舞台として、人間と信仰とのありように肉薄する。

一向一揆と戦国社会

一向一揆と戦国社会

宗教で読む戦国時代 (講談社選書メチエ)

宗教で読む戦国時代 (講談社選書メチエ)

9、本郷恵子『中世公家政権の研究』(東京大学出版会、1998年)など。中世朝廷研究の第一人者であり、実証作業の奥深さとダイナミズムに魅力がある。

蕩尽する中世 (新潮選書)

蕩尽する中世 (新潮選書)

10、桜井英治『日本中世の経済構造』(岩波書店、2003年)など。中世経済史を基軸として、社会構造に鋭く切り込んでいく。網野史学の後継者と評される。

贈与の歴史学  儀礼と経済のあいだ (中公新書)

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)

11、新田一郎『日本中世の社会と法』(東京大学出版会1995年)など。中田薫石井紫郎らの伝統を受け継ぐ、法制史研究室教授。法への深い洞察をもとに、国家や社会を考える。

中世に国家はあったか (日本史リブレット)

中世に国家はあったか (日本史リブレット)

12、東島誠『公共圏の歴史的創造』(東京大学出版会、2000年)など。歴史理論を縦横に駆使して、人々のありように肉薄していく。新しい潮流を感じさせる、若手の第一人者。」(上記本郷氏ブログより)  

選書日本中世史 2 自由にしてケシカラン人々の世紀 (講談社選書メチエ)

選書日本中世史 2 自由にしてケシカラン人々の世紀 (講談社選書メチエ)

〈つながり〉の精神史 (講談社現代新書)

〈つながり〉の精神史 (講談社現代新書)

・著者の本郷和人
選書日本中世史 1 武力による政治の誕生 (講談社選書メチエ)

選書日本中世史 1 武力による政治の誕生 (講談社選書メチエ)

戦国武将の明暗(新潮新書)

戦国武将の明暗(新潮新書)

【突撃!隣の研究者】本郷和人先生 - Ylab 東京大学 山内研究室


便乗して
◎わたしが選ぶ歴史愛好家向日本中世史学+10冊(思案中)
 ただし、東北住人の立場からです。
1 網野善彦

蒙古襲来―転換する社会 (小学館文庫)

蒙古襲来―転換する社会 (小学館文庫)

2 五味文彦
躍動する中世 (全集 日本の歴史 5)

躍動する中世 (全集 日本の歴史 5)

3 石井進
中世のかたち   日本の中世〈1〉

中世のかたち 日本の中世〈1〉

4 千々和到5 入間田宣夫・大石直正(編)
みちのくの都 多賀城・松島 (よみがえる中世)

みちのくの都 多賀城・松島 (よみがえる中世)

文献史学・考古学の協働による東北中世史の出発点。
+入間田先生の単著
都市平泉の遺産 (日本史リブレット)

都市平泉の遺産 (日本史リブレット)

+大石先生
周縁から見た中世日本  日本の歴史14 (講談社学術文庫)

周縁から見た中世日本 日本の歴史14 (講談社学術文庫)

6 保立道久

義経の登場―王権論の視座から (NHKブックス)

義経の登場―王権論の視座から (NHKブックス)

東日本大震災を最も正面から受け止めた研究者としても、後世に残る思う。
歴史のなかの大地動乱――奈良・平安の地震と天皇 (岩波新書)

歴史のなかの大地動乱――奈良・平安の地震と天皇 (岩波新書)

かぐや姫と王権神話 ~『竹取物語』・天皇・火山神話 (歴史新書y)

かぐや姫と王権神話 ~『竹取物語』・天皇・火山神話 (歴史新書y)


7 佐藤弘夫

鎌倉仏教 (ちくま学芸文庫)

鎌倉仏教 (ちくま学芸文庫)

東北関連としては、
霊場の思想 (歴史文化ライブラリー)

霊場の思想 (歴史文化ライブラリー)

8 飯村均

中世奥羽の考古学 (東北中世史叢書)

中世奥羽の考古学 (東北中世史叢書)

東北中世考古学の到達点。専門書なので、一般向けとしては、ちょっと難しいですが。
「中世の成立には、「北からの」新興勢力(安倍・清原氏)の台頭が大きな影響を与えている」。
そして、その前提として「律令国家の東北経営の北進」があったという結論です。モノから見てそうなのだというところがすごいです。
鎌倉時代については↓『鎌倉幕府と東北』に載っています。
鎌倉幕府と東北 (東北の中世史)

鎌倉幕府と東北 (東北の中世史)

9 古代史から
平川南

東北「海道」の古代史

東北「海道」の古代史

東日本大震災以後、最も感銘した古代史分野の本です。

・考古学から
10 松木武彦

旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記 (全集 日本の歴史 1)

旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記 (全集 日本の歴史 1)

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(行雲2)