「石巻の板碑」展(石巻市博物館)に寄せて─武士とお坊さんと石工のデザイン力

東日本大震災津波で被災した文化センターを継承する施設で2021年11月に新たに開館した石巻市博物館で 「石巻の板碑-調査の記録をたどる-」と題した企画展が開かれている。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023

板碑は鎌倉・南北朝室町時代の供養塔。石巻市は全国有数の集中地である。その石巻市博物館の企画展は26日まで。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023

企画展のポスターとなったガネーシャのようなデザインは梵字を組み合わせて五輪塔をえがいたもの。凄いデザイン力だ。

石巻の板碑」展 板碑の展示(複製) 石巻市博物館 2023

板碑愛好家はマニアともいえるし、「調査の記録をたどる」という副題をつけたこの展示もマニアック。
しかし、板碑は発注者の武士、指導したお坊さん、製作した石工さんのアイデアの見せ所であり、現代的にはアートでもあるというのが私の考え。
墓所や聖地に立つ供養塔を敬虔な気持ちを持って観るとともに、この歴史文化遺産をいろんな見方で楽しんでほしい。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023
石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3

鎌倉時代阿弥陀如来の来迎図を拝み極楽往生を願う。
万石浦の島で発見されたという阿弥陀如来来迎図板碑に顕れる。
女川の生涯学習センターに保管され東日本大震災の大津波で流出。
今や、この拓本が貴重なものとなった。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3

秋草を描いた供養塔は全国的に類例を知らない。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3

沿岸の板碑は東日本大震災津波に耐えて残ったものが多いが、驚くべきことに復興工事で失われたものが多いのには愕然とした。
文化財保護当局は歴史文化遺産としての板碑に眼を向け、保護そして活用を主導されんことを望む。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3
石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3

166人の人々がお金などを出し合って上品山の麓に建てたと推定される十三仏の供養塔は室町時代の有力者、民衆を含めた芸術品。

雄勝の板碑を子細に見ればUFOの様な天蓋。ぜひ文化財として救いの手を。「石巻の板碑」展 石巻市博物館
石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3

板碑は当時、金箔や金泥により金色に輝いていた。保存の良いものにはその名残が残っている。

石巻の板碑」展 ひかり拓本 石巻市博物館 2023.3

風化した碑面を拓本で読み取るのが普通だが、最近は上椙氏が発明したひかり拓本が登場し、まもなく利用できるとのこと。
その威力は素晴らしく拓本より鮮明だったりするので、さまざまな石造物などに利用できる。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 ひかり拓本 2023

会場では実際にスタッフの指導で体験できるのでお勧めします。

石巻の板碑」展 石巻市博物館 ひかり拓本体験 2023.3
石巻の板碑」展 石巻市博物館 ひかり拓本 2023.2

cpcp.nich.go.jp
readyfor.jp
www.nhk.or.jp

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3

ご興味を持ちましたら、現地でご覧ください。長塩谷板碑群は防災工事で出土し近くから移設したものです。
makiart.jp
「主な展示資料
館蔵:長塩谷板碑、高木観音堂板碑、鹿妻専称廃寺跡出土板碑、旧石巻文化センター資料(板碑拓本、板碑複製)、旧河北地区教育委員会資料、『石巻の歴史』掲載拓本・トレース図、『北上川下流域のいしぶみ』掲載拓本ほか
文応元年銘板碑(石巻市 高徳寺蔵)、阿弥陀三尊図像板碑(石巻市香積寺蔵)、雄島周辺海底採集板碑(松島町 瑞巌寺宝物館蔵)、緑泥片岩製長禄四年銘板碑(仙台市 長徳寺蔵)」(上記HPより)

石巻の板碑」展 石巻市博物館 2023.3
石巻市多福院 父母の極楽往生祈願の巨大板碑 3.56m 2018 田中則和

以上は展示のごく一部です。企画展はまもなく終了なのでぜひご覧ください。
展示の仕方ですが、板碑の銘文は斜光を当てないと見えにくいのでスタンドのようなもので斜光を当てるとよいと思います。
また、文書類は平置きで斜めに見れる展示ケースを使っていただけると見やすいです。
一番残念なことは図録がないことで、後追いでもよいのでぜひ作っていただきたいです。
(写真、掲載は石巻市博物館の許可を得ております。掲載写真は鮮明化処理をしております。)
kahoku.news
www.city.ishinomaki.lg.jp
tentijin8.hatenablog.com
artexhibition.jp
tentijin8.hatenablog.com
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●注目記事
news.yahoo.co.jp
tentijin8.hatenablog.com


◎お勧め本

吾妻鏡と鎌倉の仏教 菊地大樹 吉川弘文館 2023.3.10

吾妻鏡と鎌倉の仏教
仏教から見た鎌倉時代を『吾妻鏡』の記述を平易に解説しつつ、その意図と現在の研究水準をわかりやすく述べる好著。
広くお勧めいたします。
 「東国に樹立された幕府の本拠地である鎌倉で、宗教はいかなる役割を担ったのか。幕府の公的記録『吾妻鏡』に記された源頼朝の信仰、朝廷との交渉、栄西日蓮ら僧の動向、武士の信心、永福寺はじめ大寺院の役割など、トピックをわかりやすく解説する。『吾妻鏡』の魅力と都市鎌倉の実像を新解釈を交えて描き出し、仏教からみた鎌倉時代像の扉を開く。」(吉川弘文館HP)
目次
「ガイダンス/第一講 源頼朝の信仰と天下草創(祈りとともに始まる時代/政治文化装置としての寺院と幕府/持経者としての源頼朝)/第二講 個人の信心から都市鎌倉の宗教へ(源頼朝の観音信仰/鶴岡八幡宮の成立/故実を語る場/頼朝将軍記の掉尾)/第三講 都市鎌倉と天台宗勢力(永福寺の創建と意義/栄西の位置づけ/鶴岡八幡宮の発展/鎌倉の仏教と寺門派の再評価)/第四講 日蓮が見た都市鎌倉(『吾妻鏡』が描かない鎌倉の仏教/中世社会の枠組みから鎌倉の仏教を考える/鎌倉の専修念仏と日蓮)/第五講 京と鎌倉、そして鎌倉仏教(鎌倉幕府と朝廷/後嵯峨院政と執権政治の展開/『吾妻鏡』後の鎌倉)/閉講の辞」(吉川弘文館HP)


●追記・追悼 大江健三郎さん

大江健三郎 話して考える と 書いて考える 集英社文庫 2007
「話して考える」と「書いて考える」 (集英社文庫)
「人が苦しみから恢復するとはどういうことなのか。本を読むということの真の意味は。そのことで生まれる「想像力の勢い」が私たちを導く先にあるものは何なのか。
現代の世界について、自らの家族について、この国の憲法について、そして未来と希望について―。ノーベル賞作家が若い人々へ向けて真摯に語った励ましに満ちた言葉たち。文庫化に際して、書き下ろしエッセイを収録した傑作講演録。」(AmazonHP)
偲びながら読んでおります。
大江健三郎 - Wikipedia

大江健三郎 晩年様式集 講談社文庫 2016年


◎お勧めアルバム
中島みゆき 世界が違って見える日

↑普通版で十分です。なぜかAmazonのアクセスエラーがでるのでとりあえずの紹介です。