この遺跡 残さずどうする─入の沢遺跡と高尾山古墳(松木・磯田氏の記事に寄せて)

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      (入の沢遺跡から国史跡伊治城跡、そして北方を望む グーグルアース)
いわば「ヤマト政権の北辺の王」に関わる遺跡として注目を集めつつある宮城県栗原市の入の沢遺跡。松木武彦さん(国立歴史民俗博物館教授)の東京新聞連載「歴史への冒険 考古学の今」(6月16日)は「この遺跡 残さずどうする」という見出しで、入の沢遺跡を「超大物の遺跡」として遺跡の重要性と保存の必要性を分かりやすく説明。その記事に共感し、該当部分を引用いたします。  
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               (竪穴建物跡出土珠文鏡)
 「(前略)青銅器がらみの大発見は東北にもおよんだ。宮城県栗原市の入の沢遺跡。昨年末にさかのばるが、丘の上を堀で厳重にかこんだ四世紀(古墳時代前期)の防塞集落から三枚もの鏡(のちに四枚と判明)が見つかった。古墳時代の鏡の出土例としてはここが北端で、あまつさえ集落から複数というのは西日本まで類例を求めてもなお珍しい。
 しかも、そのうちの二枚は同じ竪穴住居から出ている。さらにこの竪穴住居には、鏡のほかにたくさんの鉄製品、多彩な玉類、日常生活では使わない様式の土器など、質量ともにこれまでに見たこともないほどの品物が納められ、それが火事で焼け落ちた中にパックされた状態で発見された。いうなれば、古墳に副葬される前の品物一式がそのまま保管された宝庫ともいうベき建物だったらしい。 たくさんの品物に囲まれて古墳に眠る有力者の姿や営みを、ようやく今回初めて、彼ら彼女らが暮らしていたはずの集落でつかめそうなのだ。
 この遺跡は、このままでいくと国道バイパスの工事で姿を消してしまうと聞く。だが、「この遺跡を残さないで、どの遺跡を残すの?」というレペルの超大物の遺跡。バイパスと両立する形で、最善の策を追求してほしい。(まつぎ・たけひこ=国立歴史民俗博物館教授)*毎月―回掲載。」
私の考えは、入の沢遺跡は、ヤマトの文化と北の文化との接点にあり、古代国家形成期の実像を入の沢遺跡(栗原)から全国に発信しうる国史跡クラスの歴史文化遺産だと思います。
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(中央土肌のところが入の沢遺跡、その左に大仏古墳、右側に「大仏」、その右手に国史跡伊治城跡が連続しています。 グーグルアースより)
遺跡は、国道4号築館バイパス建設予定地にありますが、道路を迂回などの工夫をして、入の沢遺跡、(入の沢遺跡につながるこの地域の有力者の墓の可能性がある)大仏古墳国史跡伊治城跡そして「大仏殿」まで含めた一大歴史公園を地元NPOが運営するなどして、これらの埋蔵歴史遺産を活用することによって、きっとよい地域の活性化につながると思います。地域の歴史文化遺産を活用する復興まちづくりに取り組む国交省の英断を期待いたします。
歴史・文化遺産を活かした復興まちづくりの基本的考え方 国土交通省都市局

「東北地方でも4世紀に宮城県北部まで古墳が築造され、大和などと同じ生活の仕方をした集落が確認されています。つまり、宮城県北部にまで、大和王権に連なる勢力がいたのです。大和に連なる勢力はこれまで比較的順調に広がったと考えられてきました。しかし、平成26年に宮城県栗原市入の沢遺跡が発掘調査され、まったく新しい事実が判明しました。入の沢遺跡は大溝と柵木で防御された大規模な集落です。調査が進むと、竪穴住居は火災で焼失していることが判明し、小型銅鏡、装身具など通常集落では出土しない貴重な遺物が次々に発見されました。
 入の沢遺跡の調査成果はこれまでの常識を覆し、新たな東北古代史の理解を必要とすることを示しています。 本シンポジウムでは調査成果をもとに入の沢遺跡でいったい何が起きていたのかを明らかにし、古代東北の新たな歴史像を求めて、出土遺物、東北北部の続縄文文化などの観点で発表、討論を行います。」(下記シンポジウム予告より)
【アジア流域文化研究所公開シンポジウム】古代倭国北縁の軋轢と交流
入の沢遺跡現地説明会─4世紀ヤマト文化北辺のタイムカプセル - 縁果翁記

 日本列島の各地域の「まほろ」(地域の由緒を伝える素晴らしい場所)を伝える埋蔵歴史文化遺産保存の声が高まりつつある。それは、道路建設と両立する地域活性化であり、国土交通省の政策とも合致するものと考えます。


【関連記事─日本の東西で「まほろば」を物語る遺跡の保存要望の声が高まる】
栗原市議会予定6月18日 三塚東議員 「「入の沢遺跡」の保存に国・県へ要請せよ」

◎高尾山古墳(沼津市)
「日本国家誕生時の重要遺跡。それが沼津にあるのは地域の誇り」(磯田道史さんの「古人をちこち」讀賣新聞)
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「磯田(道史)さんがとても分かりやすく、この高尾山古墳の事を書かれています。
高尾山は壊せる古墳ではない。壊せば祟られるとは言わないが、恥だ。
「あのときの沼津の人と市長は偉かった」と後世に語り継がれる決断をしたほうがいい。」(讀賣新聞記事とも下記、山下ふみ子さんのブログより)
磯田道史さんの見解もまことにその通りだと思う。各地の「まほろば」たる歴史文化遺産を核にした地域の活性化を願うとともに東西の保存の高まりに期待する。
韓流研究室 沼津・高尾山古墳 初期古墳壊すのか by磯出道文
東日本最大級の「高尾山古墳」が破壊の危機に?!|misaのブログ
【データリンク】
高尾山古墳を壊すの? | 山下ふみこオフィシャルブログ | 沼津市議会議員 山下ふみこ
「陳情書を提出するのは、古墳近くの金岡地区の住民でつくる「高尾山古墳を守る市民の会」(杉山治孝(はるたか)代表)、考古学者を中心にした「高尾山古墳を考える会」(瀬川裕市郎代表)、市内外の声を集める「高尾山古墳の保存を望む会」(吉田由美子代表)の三団体。いずれも市が先月に取り壊し方針を発表後に発足した」(中日新聞 下記リンクより)沼津の高尾山古墳 壊さないで:静岡:中日新聞(CHUNICHI Web)
「栗原裕康沼津市長は同日の定例会見で、「やみくもに道路建設を強行することはない。文化財保護との両立を目指す」と語った」(下記記事より)
高尾山古墳(沼津市)を守る市民の会など保存要望
静岡)沼津・高尾山古墳、取り壊し議案巡り論議:朝日新聞デジタル
古墳について > THE 古墳 - ぶっちゃけ古事記のカテゴリ日本の成り立ちの鍵握る貴重な遺跡・高尾山古墳を守る団体が三つ発足
宮城県考古学会-宮城県の考古学情報


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